桃太郎さんーー5年後の君は?

むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがおりました。

おばあさんが川へ洗濯しに行った時に拾った桃から桃太郎が生まれ、立派に成長した後、犬・猿・キジを従え鬼を退治しました。

桃太郎一行は財宝を里に持ち帰り、それを肴に祝杯をあげ、それぞれの功績を讃え戦いの疲れを癒した。

その後、財宝を分け合った桃太郎一行は解散した。

あれから5年―――

「桃太郎、桃太郎。ほら、起きんかい!掃除の邪魔じゃ」

「うるさいばばあ」

「何だその言い方は。あんた昨日はどこにほっつき歩いていたんだい。夜になっても帰ってこないと思ったら朝方に大きな物音立てて!」

「あーもう、うるさいなあ」

「しかも昼になってもぐーたらして、鬼退治の財宝はもうとっくに無くなってるんだからいい加減働きに出たらどうなんだ!」

桃太郎はおばあさんの剣幕に全く動じず、布団から出ようとしなかった。

「仕事ねぇ……そんな何刻もちまちま草履を編んだり、疲れる畑仕事をしても一日一両も稼げないのに働く意味なんてあるのかな。働いたら負けだと思うんだよね。それよりも、サイコロ二つで一両、いや、十両、百両も夢じゃない……」

「賭博で五十両借金抱えてるのはどこのどいつだい」

「大丈夫だよ、五十両なんてすぐプラ転さ。ばあちゃん、今夜も行って来るよ。お金貸して。絶対勝って返すから」

桃太郎は仰向けになり、おばあさんに向けて両手を差し出した。何の悪びれる様子のない桃太郎に、おばあさんは帚を握る手に力を込めた。

「ねーねー、早く。おばあちゃ……」

「あんたふざけんじゃないよ!うちにはもうお金なんて無い。じいさんだって倒れて以来寝たきりなんだよ!!!もう我慢出来ない。あんた出て行きな!」

おばあさんは桃太郎の布団を勢い良くはがし、持っていた帚で桃太郎を思い切り叩いた。

「やめて、やめて、ばあちゃん」

「出てけ!出てけ!出てけーーーー」

必死の訴えもむなしく、おばあさんは箒を止めない。あっという間に部屋のすみに追いやられ縁側から転げ落ち、外へ放り出された。それからおばあさんは桃太郎の私物を次々と外へ放り投げた。桃太郎はようやくここでおばあさんが本気だと言う事に気付いた。

「ごめん、ごめんなさい。ばあちゃん。ちゃんと働くから、お願い追い出さないで……」

「そう言って働いた試しがあるかい!ようやく仕事を見つけたと思っても三日と続かないなんて本当情けない……職を見つけて借金返すまで帰ってくるんじゃない」

「わかった。どうせみんな僕が悪いんだ。悲しませてごめんね。出て行くよ。だからおばあちゃん、手切れ金百文ちょうだい」

「はぁ……呆れた。そんなもん無いよ!早くお行き。もう二度と顔も見たくない」

おばあさんは持っていた帚を桃太郎に思い切り投げつけ、縁側の障子を閉めた。

桃太郎は帚の柄がクリーンヒットした額をさすって、このまましれっと部屋に戻ろうと考えたがまたおばあさんから追い出されると思い、仕方なく荷物をまとめ家を出る事にした。

地面には衣服や賭博に勝った時に勢いで買った小さな石の仏像やさっきまで寝ていた布団、履き古した草履、食器などが散らばっていて、到底おばあさんが最後に放り投げた風呂敷じゃ包みきれなかった。

桃太郎は辺りを見渡し、運ぶのに丁度良さそうなものは無いかと探し、板が所々はがれ、ささくれている荷台が目に入った。これはおじいさんがよく芝刈りに使っていた荷台である。桃太郎はおじいさんはもう倒れて動けないから使わないだろうと思い、拝借する事にした。

一つずつ丁寧に荷物を積み込み、とりあえず質に行こうと桃太郎は思った。

「くっそー……仏像が元値の1割にもならなかった……あの商人め、ぼったくりやがって」

桃太郎は大荷物を全て質に入れ、お金にした。しかし、ようやく三日すごせるかどうかのお金にしかならず、桃太郎は荒々しく質屋を出てその辺にあった石ころを蹴った。

どう考えてもこのお金じゃ何も出来ない。桃太郎はなじみの賭博場へと足を運ぶ。

「よう、桃さん今日はずいぶんと遅いじゃないか」

「ムロさん聞いてくれよ、ばあさんに追い出されてしまったんだ」

「ということは文無しかい?」

「いや、家から持って来た荷物を全部金にしたからすこしはあるよ」

「おばあさんも浮かばれないねぇ。ひひっ」

引き笑いするのは賭場の常連客で玄さんと呼ばれている白髪、白鬚の老人だ。玄さんはいつも古いぼろ切れの様な服を着ている。所々穴が空いているので冬はとても寒く夏は風通しが良く見える。玄さんは甘味物が好きで賭場で調子が良いと勝ち分で買い食べながら賭場を楽しむ。

桃太郎は玄さんが持っていた甘味に覚えがあった。

「玄さん、それはなんだい?」

「鬼印のきびだんごだよ、一つ食べるか?」

「ありがとう、いただくよ」

桃太郎はきびだんごを一口で頬張った。この形、香り、味、桃太郎は確信を持った。

「玄さん、ちょっと袋を見せてくれないか」

「あ、こら。何をする」

強引に玄さんの持っているきびだんごの袋を桃太郎は取り上げ、裏側を見た。

『製造元 鬼が島』

「やはりか」

口角が上がるのを止められなかった。間違いない。このきびだんごはおばあさんが作ったものそのものだ。きっと僕が鬼が島に行った時、落としたきびだんごを拾って製造販売したのだろう。このきびだんごを製造主に無断で販売していると言う事を理由にまた鬼が島を襲撃できるんじゃないか…!?

「いける……これだ!玄さんありがとうよ」

「おい、桃太郎もう帰るのか?」

「ムロさん、少し用事を思い出した。また来る」

桃太郎は早速昔の仲間を再集結させるため、旅に出た。

※好評だったら続きます

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