昔々あるところに桃から生まれた桃太郎がいました。
鬼退治の道中、桃太郎はおなかをすかせた犬と出会いました。
お腰につけたきびだんご、一つ私に下さいなと、犬は桃太郎にお願いしその代わりに桃太郎の仲間になりました。
鬼を退治し、金銀財宝を手に入れた犬は故郷の犬の里で豪邸を建て豪華なものを身にまとい豪遊したのでした。
あれから5年ーーー
借金まみれになった桃太郎がかつての仲間を探しに、最初におとずれたのは犬の里。
かつて一緒に旅をした犬はここに豪邸を建て、多くの子に囲まれて過ごしていると風の噂で聞いていた。
「おーい犬よ、どこにいる?また一緒に旅をしようじゃないか」
桃太郎は犬の里をくまなく歩き犬を探した。しかし豪邸も犬も見当たらなかった。
「もしもし、あなた。もしかして里の外れにお住まいの犬さまのお仲間か?」
「ああ、そうだよ。犬の居場所を知っているのかい?」
「知ってるよ、知ってるとも。だって彼は有名だもの」
「それはよかった。じゃあ僕を案内してくれよ」
小さなしっぽを小刻みに振る可愛らしい犬が案内してくれるようだ。
それにしても、異様にヒト気……いや、イヌ気がないと桃太郎は思った。
「ほら、ここだよ」
桃太郎はあぜんとして口が開いたままだった。大きな犬小屋の周りには無数の雄犬達が取り囲んでおり、けたたましく吠えていた。
「これは何の騒ぎだ?」
近くにいたボロボロの中年犬に声をかけた。
「鬼退治から戻った犬さまがここに豪邸を建ててから、里から次々に雌犬を屋敷に呼んでから帰ってこないんだ。最初は独身の犬ばかり呼ばれていたのにとうとう既婚者の雌犬まで呼び出して……娘と嫁がかれこれ1年以上家に帰っていない。だからこうしてみんなで返せと抗議しているんだ」
そう言うと、状況を説明してくれた犬はまた吠え出した。大きな犬小屋の扉は固く閉ざされていた。
どうやって中に入ろうか…桃太郎は考えた。
その時、青い袴を着た若い秋田犬の集団が豪邸を取り囲み「御用だ!御用だ!」と雄犬たちをかき分けた。
あっという間に門をこじ開け、秋田犬たちが豪邸の中へぞろぞろと入っていった。
桃太郎も便乗して入り口までついていくと中は非常に騒がしく阿鼻驚嘆。
単語を一つずつ聞いていくと「お金を払え」「嘘つき」「ろくでなし」といった罵詈雑言であった。
ぷっくりと太ったメスの和犬たちが一匹一匹と屋敷を後にし、秋田犬たちが屋敷中にペタペタと赤い札を張り出した。
札には”差し押さえ”と書かれていた。
桃太郎は豪邸の中に入った。
進めば進むほど立ち込める獣臭に桃太郎はむせそうになった。
その最奥にかつてともに戦った同士があられもない姿で寝そべっていた。
毛並みはくちゃくちゃで所々禿げていた。
「よう、犬。儲け話があるんだ。一緒にこないか?」